「夢空!?帰ってきたの?結衣だってまだなのに、なんで夢空だけが帰ってくるの!?」
お母さんの声が部屋の外から聞こえる。
一昨日、結衣が退院して家に戻ってきたから私の存在すら忘れていると思っていたけど、
…お母さんの台詞からしてそんなに私には帰ってきて欲しくなかった?
「…もう、無理だよっ……」
薄々気づいていた、………もうとっくに限界だった。
体なんて比じゃないくらい心がボロボロで、傷だらけで。
そんな傷を隠すように強がって目を逸らしていただけだから。
私は、……強くなんて、ないんだよ。
これ以上、どう頑張れって言うの。
前髪を搔き上げて、ふうっと息を吐く。
ボーッとしたまま、部屋の扉から出ると、私と同じ何の温かさも光もないお母さんの瞳が目の前にあった。
「夢空、部活は!?部活があるからって結衣のお見舞いも渋ってたのに、もう飽きたの!?」
帰ってくるには早すぎる時間帯に私が現れたのが相当気にくわないみたいで、怒鳴り散らす母に、顔がどんどん下を向くのがわかった。
「なんか言ったらどうなの!?結衣は!?何で結衣が帰ってこないのに夢空が帰ってくるの!?」
…さっきから、結衣のことばっかり。
ねえ、目の前にいるのは私だよ、夢空だよ。
「何か答えなさい!!」
「結衣は、まだ、部活見学。私は、部活休んだ。」
痛いくらいに高い声で怒るお母さんに顔を小さく歪めながらポツリポツリ、答える。


