「…人に見られてると緊張するんだけど。」







「じゃあ俺のこといない存在だと思って?」









なんだ、その無理難題。








私の斜め前に向かい合うように勝手に座っている琉空をいない存在って思えっていう方が無理でしょ。








ニコニコしている琉空を見て、追い出す気すらだんだん失せてくる。









「邪魔しないなら、いいよ。」








「本当?やったあ。」










喜ぶ琉空を横目に、黄色を足すために筆を持った右手を動かす。








食い入るように見てくる琉空は、見ないようにキャンバスだけを視界に入れた。










段々光を浴びている部分が浮き出てきて、影がある部分とコントラストがはっきりしてくる。









…うん、思ったよりいい感じかもしれない。








誰かといると決して描けない絵。








…ましてやクラスとか家で、何て絶対に無理。








それなのに、……琉空がいても描けるのは、何でだろう。








「ねえ、夢空?」







「…なに?」








不思議な現象に首を若干傾げながら考えていると、斜め前から呼ぶ声がして、一旦手を止めてそっちに向き直る。









「クラス楽しい?」








何もかもかも見透かすように真っ直ぐとその瞳が私を射抜く。








どくんっ、と心臓が鈍い音を出したのを感じながら、俯いた。









…なに、何で急にそんな質問…?










「俺、明日が初めての登校日じゃん?…3年生のクラスがどんな感じなのかなって思って。」










ああ、そりゃあ2週間も学校に来れなかったら気になるはず。









でも、私に聞くのだけは、間違ってると思う。








「…私、琉空と同じクラスじゃないから知らない。」







「うん、さっき担任に4組だって言われた。残念だなあ、夢空と一緒のクラスが良かったのに。」









眉を下げてふわっと笑う琉空の思わせぶりなセリフに、今度は私が眉間に皺を寄せた。









「だから教えて?夢空がどんなクラスにいるのか、知りたい。」









…もしかしたら君は知っているんだろうか。









私があの息苦しいクラスを変えたくて変えたくて仕方がないこと。








…なのに私が、勇気がなくて迷っていることも。








澄んだ瞳で微笑む琉空から目を逸らせなくて、固まる。