「…なんで、渚沙は理緒に何も言わないの?」
胸のざわめきを気にしないようにして、問いかけると渚沙が少し困ったように笑う。
私もさっき初めて渚沙の声を聴いたし、クラスの誰1人も渚沙がこうやって話せることを知らないだろう。
「…んー、…もう諦めちゃったのかも。最初は何か言ったら倍に返ってくるのが怖くて何も言わなかったんだけど、何言ってもきっと変わらないって思うようになったっていうか、…もう、なんにも期待しなくなったから、かな。」
へへっ、なんて零しながら言う渚沙と反対に、私は口角を下げた。
「…ごめん、ね。何も出来なくて。」
「…やめて?夢空ちゃんは悪くないんだから、謝らないで?…私はこの生活から変わりたいとも今はもう思ってないよ。」
柔らかく言葉を紡ぐ渚沙に、何も言えなくなる。
…私だって、変わりたくても何も変わらないって、ずっと思ってた。
渚沙と同じように、何もかも諦めていて、全部"仕方ない"で片付けて。
でも、大きくて、こげ茶がかかった綺麗なのに、……希望がない瞳。
きっと私も、同じ目をしている。
「…私、渚沙ともっと話してみたい。」
ポツリ、と呟いた言葉に渚沙は目を見張ったけれど、また静かに微笑んでそっと頷いた。
それからはしばらく沈黙が続いてしまったけれど、渚沙2人ならと沈黙も何故か、安らいだんだ。


