美浜 夢空。美しい浜で、“みはま”。夢に空って書いて、“ゆら”って読む。






少し読みにくいこの名前は、周りからは中学に入って1年生くらいの時に非難された。






でも中3になった今はもうそんなことないし、直接非難する人もいなくなった。






…陰で何を言われてるかはわからないけど。






「夢空ー?」





「…え?ああ、ごめん、何?」






呼びかけられた声に黒髪の鎖骨くらいの長さにある毛先を揺らして顔を上げる。






「あはは、絶対別世界行ってると思った。いやー、クレープ食べに行こうかって。」





「…クレープ?」





「そうそう。どう、行かな…」






─ ガッシャン!!





目の前のサイドポニーテールの小池 夏芽(こいけ なつめ)と、ショートヘアをした佐倉 彩(さくら あや)の話を途中で中断した大きい音に、思わずビクッとする。








音の原因なんて見なくてもわかる。机が倒れた音だ。








「お前、調子乗ってんじゃねえよ!!」







続けて聞こえてくる聞き慣れてしまった怒号に、思わずため息をついて、






その怒りに肩をすぼめる雨宮 渚沙(あめみや なぎさ)の姿へ視線をうつす。




「渚沙も可哀想だよね〜…、理緒の好きな人に好きになられただけなのに。完全に八つ当たりじゃん。」





コソッと小さく言う夏芽に、うん、と同意を見せた。




可哀想、なんてきっとこのクラスの理緒軍団以外全員が思ってること。





いじめのリーダーは、槇原 理緒(まきはら りお)。





父親が社長をやっていて、どうやらお金持ちらしい。





自分の意見とかハッキリ言うタイプで、クラス内でも結構中心にいる。





その周りに集まって、理緒とずっと一緒に行動しているのが通称理緒軍団。






クラスの意見も理緒によって決められてしまうから、





誰も逆らえなくて、ターゲットにならないように息を潜めるだけだ。