ついに本鈴が鳴って、先生が入ってきたのと同時に「あれ?雨宮さんは?」と質問を私たちに問いかける。
クラス全員が、渚沙の席と理緒をバレないように交互に見るけれど、何も言えなくて無言の状態が続く。
「…さあ?今日は見てないんですけれども。」
「そうか、槇原ありがとな。」
そんな中、口を開いた理緒から出た嘘。
本当は渚沙は、学校にいるのに…。
それでも理緒の嘘はこのクラス全員で"真実"にしなくてはいけない。
でも、……本当にいいの?
本当に、それで、いいの?
自分自身への疑問に心臓の鼓動が速くなって、手に汗をかき始めたのを感じた。
「雨宮…、不明遅刻、と。」
何かに書き込む先生の姿に、カラカラにのどが渇く。
…ここで、私が左手を挙げて、何かを言えば、このクラスは少しは変わるのだろうか。
挙げろ、私の左手。
違うんだって、渚沙は本当は来ているんだって。
言え。
「…よし、わかった、朝読書に移れ。」
先生がその台詞を言った瞬間、出かかった言葉が急激に喉の奥へ沈む。
…また、言えなかった…。
声に出す勇気も、手を挙げることも、
結局、私は…出来ないままなんだ。