「で、夢空はどうしてここに?」






…あ。






琉空と部屋の前で向き合って話しているうちに、当初の目的を忘れていた。








「妹のお見舞いに来たんだけど…」






「ん〜、……と?美浜結衣、ちゃん?」








私の少し後ろにあるネームプレートを読んで、妹の名前を読み上げた琉空に頷く。







…同室なんだから少しは覚えといてもいいんじゃない?








「ふうん、妹は結衣って、名前読みやすいんだね。」








琉空が何気なく言った、周りからもよく言われる言葉に、少し体がピクッと反応する。








別に琉空の言ったことは正しいし、普通に考えつく疑問だと思う。







でも、…その度にお母さんの冷たい目が私の頭に浮かぶ。








「…親が、私に"夢空"って少し派手な名前を付けたから、結衣には普通の名前を付けたかったんだって。……親にとって私は失敗作だから。」








俯きながら、色んな意味を込めて口から出た言葉にグッと拳を強く握った。








結衣の方が優先されて結衣だけが可愛がられた。








"失敗作"の私、よく出来た可愛い妹。








…そんなのどっちが愛されるかなんて、一目瞭然だ。








視界に広がるのは病院の床だけで、琉空の顔は分からないけれど、きっと私の方はひどい顔をしているはずだ。








…ていうか、私なんでこんなことを今日会ったばっかりの人に話しているんだろう。









「…ごめん、今の忘れて。」







我に返って、顔を上げながらそう言ったにも関わらず、目を見張ったのは、









…琉空がすごく優しい表情で私を見ていたから。










「…俺は、もっと夢空のこと知りたいし、悩んでるなら力になりたいと思うけど、夢空が忘れてって言うなら忘れるよ?」









そのまま語尾に「どうする?」とでも付きそうなセリフに、唖然とする。








…私のことを知りたい、なんて絶対に知らない方がいいと思うのに。






知ったって何も楽しいことなんて一つもないはずなのに。







「…別に、琉空の、好きな方でいい。」







「ん?そうくる?選択肢俺なの?…じゃあね、覚えてるね。」







やっとの思いで出した声に、嬉しそうにしながら、口元を緩ませた琉空に抱いた印象は、明るくて綺麗な人だけど、









……空に浮かぶ雲のように摑みどころがない人。