「ありがとう…、今日は来てくれて、これでやっと私も百合も止まっていた時間が進められる。」








「お礼を言うのはこっちです。…俺のため母さんのためを思って苦しさを感じながらも黙ってくれていた。…それに、母さんとずっと寄り添ってくれていた。椿さんがいなかったらきっと俺と母さんはまた会えなかったかもしれない、ありがとう椿さん。」









マンションのエントランスで見送ってくれる椿さんに頭を下げた琉空の隣で、涙を拭う。








…ゆっくり首を振った椿さんが微笑んだ。









「…違う、琉空が自分で百合とやり直すって決めたの。私はただ弱虫だっただけだけど、琉空は違う。琉空、百合と仲良く過ごしてね。」









椿さんが琉空の頭に華奢な手を置いて撫でると、琉空は少し照れながらも頷く。









それからもう一回お礼を言ってから、2人でマンションを去った。









「…ねえ、夢空。」








「ん?」









「俺ね、母さんと住むんだよっ…、今まで憎んでたりもしたけど、やっと、やっと、やり直せるよっ…。間違って、ないよね?」









歩みながら聞いてきた琉空にピタッと足を止めると、








吸い込まれそうな瞳が涙をいっぱい溜めて私を見た。









「…間違って、ないよっ…、間違っているわけ、ないよっ…!」









きっとたくさんの選択肢はあった。









ずっと琉空が悩んで、やっと出した答え。









それが、間違っているわけがない。








私がそう言うと、琉空が笑った。泣きながら。








だから私も涙を流しながら笑った。









「…夢空、ありがとう。支えてくれて。」








琉空のその言葉に溢れた涙で声が出せなくて、唇を噛み締めながらゆるゆると首を振る。









…違う、いつだって、琉空が私を支えてくれた。









だから私も精一杯答えたかったんだよ。









綺麗すぎる君の涙が、晴れている空の青を映し出した。









…その泣きながら笑った顔を見た瞬間、










この世界に光が差し込んだ気がした。