「……。」
透き通る海のベースが大方出来たところで、近くの机にコトンと筆を置く。
静かな美術室で、小さく深呼吸をした。
…やっぱり、私1人で大人しく待っているなんて出来なさそう。
それに、今日は…、特別な日だから余計に。
今日だけは、琉空にどうしても、会いたい。
「…よし。」
決意した瞬間音をたてながら椅子から立ち上がって、速やかに広げていた絵の具達を片付け始める。
…自分から他の何かを絵を描くよりも優先させたのはいつだっけ。
そんなの覚えてないくらい久しぶりかもしれない。
それでも、会わなくちゃいけないと思った。
今日が終わってしまう前に。
慣れきった手際で片付けを終わらせると、大急ぎで美術室を出る。
「渚沙っ、ごめん今日私先に帰るね!」
「あ、うん、分かった、夏芽ちゃん達に伝えとくねっ…?」
鍵を返そうと職員室へ向かう途中に、廊下でフルートの練習をしていた渚沙とバッタリ会って、不思議そうにされながらも了承された。
…まあ突然全力で走って来られたら驚くのも無理ないよね。
そんなことを思いながら、鍵を無事に職員室の所定の位置まで返した途端目的地を3階へとうつす。
階段を駆け上がってすぐに見えた、3年4組の教室を後ろのドアから覗き込んだ。
……良かった、まだ、いた。
部活が始まって結構時間が経っていたから帰ったかもしれないと若干思ったけど、
でも、なんかきっと教室にいる気がした。


