先を歩く琉空に追いつくように少し早歩きで進む。










琉空も私も、コンクリートの地面を見つめててどんな顔をしているかわからなかった。









さっき初めて声を荒げて泣いていた琉空は、今はどんな顔をしているんだろう。










…でも、きっと私はすごくひどい顔をしている気がする。










そんなことを考えながらコツコツ、と自分の足音を聞いていると、隣からハッと嘲笑うように息を吐いた音が聞こえて顔を上げると、琉空が渇いた笑いを浮かべていた。









「…母さん、俺のことこれっぽっちも覚えてなかったね。…本当、バカみたい。8年間ずっと引きずっていたなんて。」







ああ、また。まただ。








なんで心の中では泣いている琉空に作り笑いを貼り付けさせてしまうんだろう。









なんで私は、また琉空にこんな表情しかさせてあげられないんだろう。










「…俺を捨てても、きっと心のどこかで一瞬でも俺のこと思い出しているかなって思ってた。捨てたこと後悔すればいいとも思ったけど、元気かなって心配してくれたりしてるかなって。…でも、全部違った。母さんは俺の存在すらも忘れてたんだよ…。」









段々声に元気がなくなっていく琉空の言葉を聞いて、私まで泣きたくなる。









ずっと8年間想ってきた気持ち。









それが全部失われてしまった。










「母さんはもうとっくに俺のこと忘れて笑顔で暮らしてたんだ…、自分が捨てたってことも何もかも忘れて、罪悪感すらも抱かずにっ…!!俺のことも父さんのことも、今まで過ごしてきた思い出すらも全部捨ててたんだ…っ!!」










「違う、違うよっ…!お母さんはきっと忘れたくて忘れたんじゃないと思うっ…!!」










「…母さんの中では、俺の存在すらなかったことになってんだよっ…!俺のこと、そこまでして忘れたかったってことじゃないかっ…!!」









苦しそうに声を出した琉空が私を見た瞬間、目をみはる。









泣いていた。辛そうに泣いていた。









誰よりも透き通る吸い込まれそうな瞳が涙を零していた。









かける言葉が見当たらなくて、立ち尽くす私を横目に涙を拭う。









……苦しい、琉空が涙を流しているのに何もできないのが。









また消えて儚く舞ってしまいそうな琉空が。









でも、何も言葉が見つからない。









……だって、誰も責められないから。










一人一人に責任はあっても、…誰も悪いと思えない。










そこがきっと琉空も苦しんでる。










百合さんを言葉じゃ責めているけど、きっとすごくすごく傷ついているんだ。