「……ごめんなさい、誰か、わからないの。」









ポツリ、と呟いた声は重苦しいこの空気に混じって消える。









でも、この場全員に聞こえてしまった、残酷な言葉。









「…ふ、ざ、けんな…っ…」









その瞬間震えた声が後ろから聞こえて、琉空を見ると一筋涙を頬に伝わせていた。










「ふざけんなっ…、俺がどんな思いでこの8年間生きてきたと思ってんだよっ…!!ふざけんなっ!!」










泣きながら叫ぶように言った琉空に私まで涙が目から流れ落ちたのを感じる。









「なんでだよっ…!!ふざけんな!!ふざけんな、っ、…………!!」









「琉空、落ち着いて!…落ち着いてよっ…!!」










殴りかかるように暴れる琉空を必死で抱きとめる。









泣きじゃくっていた、私も琉空も。










その横で静かに椿さんも泣いていた。








ただ1人、状況が飲み込めないで怯えているのは百合さんだけだった。










…琉空は、捨てられたんじゃない。








嫌われて出て行かれたわけでもない。











「ふざけんなっ…、ふざけんなよっ…!!何とか言えよ、…っ、母さんっ……!!」







ただ、







忘れられてしまった。









自分の存在も、母親であること自体も全て。何もかも。









琉空が大切にしていた思い出さえも。










「ふざけんなっ…、8年だぞっ…!!今更…っ、今更何なんだよっ…!!」










取り乱す琉空を押さえるけど、何も、かける言葉が見当たらなくて。











ただ涙を流すしかできない自分が悔しくて堪らなかった。