「…あ、あった。」








しばらくページをめくっていた峰沢さんの手が、止まったとともに溢れた声に顔を上げると開いたままの手帳が差し出される。









その指の先には、『和泉百合』の文字があった。











「…これは?」








「母が実は小さい美容院を営んでまして。話のネタや好みなどを覚えておくためにお客さんの情報などを書き込んでいるのを時々手伝うんです。…そういえば、和泉百合さんってお名前を最近聞いたな、と思っていたら、やっぱりうちの店に来ていたみたいですね。」








スラスラ話す峰沢さんの言葉を聞きながら、手帳へ視線を落とすと確かに色んな情報が書いてある。









百合さんの特徴のところには、『ゆったりとしていて、穏やか。黒髪のロングヘア。』とだけ記入されている。








隣に座っている琉空を見上げると、考えるように眉を寄せていた。










「私が情報通と言われるのも、母が美容院を営んでいるからでしょうね。その手帳には好みなども書いてあるので必然的に詳しくなってしまうものです。…あ、でもこれむやみに人に見せてはいけないものなので、理緒様のご友人ということで特別です。」









無表情のまま、右手の人差し指を口に持っていく峰沢さんにお礼を言う。









これでお店の場所がわかればある程度住んでいる場所を絞れるかもしれない。











「…すみませんがお母さんの美容院ってどこにありますか?」










「ここのカフェからすぐ近くにあります。…案外近くにいるかもしれませんね。」