「おぉ…怖…」




前の席に座っている彩が身震いをしたようなポーズを見せながら私に呟く。





「理緒も相変わらずって感じだね。」





「もううるさいもん!クラスの空気読めっての!」





うんざりした顔で言う彩に、力なく機械的に口角だけ上げる。





……クラスの空気を読んだら渚沙をいじめていいの?





偽善者って言われても仕方ないし、いい子ぶってると思われるかもしれないけど、そう感じずにはいられなくて。






それでも声に出せないのは、…私が弱虫だから。





今の関係を壊すのも怖くって、何も出来ない。






その時、少し遅れた先生が前の扉から入ってきて、落ち着いたクラスの雰囲気と前を向いた彩に、ホッと胸を撫で下ろした。





授業中はさすがに誰とも話さないし、理緒も大人しい。






1人が当たり前の時間だ。






日直の号令で始まった先生の話に耳を傾ける。






「…みんなも受験生だから、進路も決めていかなくてはならない上で、何がしたいのか、何が出来るかを自分で考えて行動していきましょう。」






……傾けたところで、聞きたくない現実に出会っちゃったんだけど。






"受験生"、"進路"。3年生になる前から何回も聞いたフレーズに静かに顔を俯かせる。





……今の自分すらも見失っているのに、未来の自分なんて、濁ったこの世界で、







これっぽっちも見えるわけが、ない。







どんな時でも"今"に必死で、未来に目を向ける暇すらない。





私の精一杯は、今しかできない。