「でも、そんなの俺の幻想で。気づかなかったけど、椿さんは俺が苦手だったみたい。…結局、椿さんも俺を置いて、家を出て行った。小5の時だったけど。」









一枚手紙を残してね、と言った琉空がさっきの手帳から薄い紙を取り出して私に渡してくれる。








『私の身勝手なわがままを許してください。光熱費も食費も全部私が払うわ。このまま貴方はこの家に住んで。お金の心配はしないで大丈夫よ。 椿 』








惚れ惚れするくらい綺麗な字で書かれた文字は、…あまりにも残酷だ。








言葉を失った私から、苦笑いしながらその紙を琉空が受け取って手帳へ挟む。









「ひどいよね…、本当。でも言った通りお金関係に関しては全部椿さんが払ってくれてるみたい。忙しい椿さんと住んでるって建前でね。…今住んでる家は、椿さんと住んでた時に使っていた家。前に夢空が片付いている、って言ってたでしょ。…俺が綺麗好きなわけでもないよ、ただあんな広い家に俺1人分の荷物しかないんだ。散らかるわけがない、それだけ。」









へへっ…、と肩をすくめて笑った琉空にどうしようもなく胸がきつくきつく締め付けられた。








確かに生活感がなかったリビング。広いわりには異様としか言えないくらい物がなくて。








高級マンションだったのも、琉空がお金持ちって言うよりも、そのまま椿さんから譲り受けたから。









…ねえ、本当に嫌になってしまいそう。








琉空がこんなにも苦しんでいたのに、何も気づかなかった自分が。









「俺、2度も大好きな人に捨てられたんだ。…それくらい嫌われて当然なんだよ、きっと。だから夢空、別に何もしなくて良いよ。多分夢空のことだから俺を助けたいって思うんだろうけど、もうどうにかしよう、なんて思ってないから。」









ほら、また。








どうしようもないくらい自分に嫌気がさす。







苦しいくせに、辛いくせに、さっきから一回も琉空が微笑みを崩さなかったことがないんだ。








ずっと、笑い続けてるんだ。








なんで、そんな顔しかさせられないの。









私は心から笑えるように助けてもらったのに、なんで琉空に張り付いた笑顔しかさせてあげられないの。