「そんなっ…、どうして…?」








無意識に発していた質問に、琉空が静かに首を傾げたのが見えた。








幸せな家庭がそんな急に壊れてしまうことなんて、ある…?








「…なんでってどうしてって、俺も何百万回も何千万回も思ったよ。…母さんを、憎んで恨んだ。捨てられたんだって認めたくなかったけど、そうせざるを得なかった。」








目を伏せて言った琉空に、唇を噛みしめる。








私のお母さんも昔は確かに冷たかったしひどく差別されていた。








…それでも、捨てられたことも、よそりはしなかったけれどご飯を作ってくれなかったこともない。








琉空は、…今までどれだけ辛かったの?









「でも、そんなどん底で憎むことしかできなかった俺を引き取って救ってくれた人がいたんだ。…母さんの姉で俺の伯母にあたるんだけど、母さんが出て行ったって知って、すぐに幼い俺を家に迎え入れてくれた。」









さっきとは一変して少しイキイキと話す琉空に、耳を傾ける。








…人を1人預かるなんて相当な覚悟が必要だから、その伯母さんはすごく良い人なんだろう。









「…その人の名前は椿さんって言うんだけど、どっちかって言ったら男運がなくて、バリバリのキャリアウーマンって感じの人。その時、椿さん独身だから、1人で住んでた高級マンションに一緒に住ませてくれたんだ。」








椿さんって…、そういえば、琉空の日記に書かれていた名前だ。








誰か分からなかったけれど、琉空の伯母さんってこと、だよね。









少し日が傾いて夜を連れてきそうな空を琉空が見上げる。









「椿さんって会社でも社長とか結構上の役職で、お金持ちなんだ。…それでも、母さんと一緒で温かい優しさは変わらなかった。少し豪快で破天荒だったんだけど、それが椿さんらしくて俺は好きだった。椿さんは本当に俺を可愛がってくれたし、母さんへの憎しみも薄れていくくらい、楽しくて幸せだった。椿さんのことが段々大好きになっていったんだ。」









椿さんに会ったことはないけれど、多分すごく椿さんは琉空の中で素敵な人なんだって感じる。









両親がいない中、一緒に生活していった2人。








でも、そこまで話した直後に琉空の瞳から光が消えたように見えた。