立ち話よりも座ろうか、という琉空の提案に賛成して公園内のベンチに座る。









遊具がそれほどないからか、ここの公園は利用者が元々少なくて、今は琉空と私の2人きりだ。









「…えっと、とりあえずどうして夢空は気付いたの?」







控えめに微笑みながら聞いた質問に答えるように、無言で家を出る時に一緒に持ってきていた手帳を差し出す。








その途端、それか……、と項垂れた琉空が手帳をゆっくりと受け取った。









「…これ、俺美術室に置いてった?」








「うん、…ごめん、ページ開いてて見えちゃった。」







「そっかあ。…意味わかんなかったでしょ、これ。」









嘲笑するように、ハッと息を吐いた琉空にぎこちなく頷くと、だよねって笑われた。









…なんで、琉空はさっきから笑っているんだろう。









笑っているのに、哀しい表情にしか見えない。









「どっから話そうか。…じゃあ、本当に最初の方。俺が生まれた時の話から。」








私が聞く体勢に入ったのを確認した琉空が小さく口を開く。









「…俺は、ひとりっ子なんだ。父さんは俺が母さんのお腹の中にいる頃に病気で亡くなったらしい。…それでも母さんは、俺を大切にしながら産んでくれた。」








私の知らない琉空の過去。







琉空が少し口の端を上げながら話すけど、1つ1つの言葉が心に重く残る。







…それでも、琉空が話してくれてるから。助けたいと思うから、……聞きたい。









「…母さんは、優しくて明るくて、すごく穏やかで豊かな人だった。小さい頃の記憶はあんまりないんだけど、所々残ってる記憶全部、俺も母さんもすごく笑ってるんだ。」








話を聞きながら、琉空のお母さんを思い浮かべる。








…うん、きっと琉空のお母さんだから、言う通り優しくて穏やかなんだろう。








「大好きだった。母さんのことが。…誰かに自慢したくなるくらい、大きくなったらこの人みたいになろう、と思うくらい心から尊敬してた。父さんはいなかったけど、母さんから素敵な人だって聞いてたんだ。…母さんが言うならきっと素敵な人なんだろうな、って。2人の子供で良かったってずっと思ってた。」







通る琉空の声が空気にスッと溶け込んで、宙に舞う。








そこまで言い終わったところで、ふうっと何かを切り替えるように息を吐いた琉空が空を見上げた。









「でも、ある日母さんは突然俺の前から姿を消したんだ。」







「え…?」








幸せな親子の様子がすぐにイメージ出来ていたのに、琉空の一言で想像が止まる。









思わず零れた声に弱々しく微笑むとまた言葉を紡ぐ。








「俺が小1の時、いつも通り買い物に行く母さんが『行ってきます』って言ったきり、俺の前に現れなくなった。出て行った時の背中も、声も、全部普段通りだったのに…、俺の中での母さんはその背中で途切れた。……捨てられたんだ、その時に。」