「…ただいま。」




家の中にだるい体を引きずって入っても、"おかえり"なんて言葉はなく、




あるのは、一切私と目を合わせない冷め切った瞳を持つ母と、凍りついた雰囲気だけ。






父は単身赴任で今は家にいなくて、妹と母と私の3人暮らし。





…まあ父がいても私に興味なんてないと思うんだけど。






「…夢空、これ明日結衣に届けてきて。」





私がリビングに入った途端、感情のこもってない無機質な声とともに大きめの袋を渡される。





「…なに?これ。」




「結衣の着替え。それ以外になにがあんのよ。」





美浜結衣(みはま ゆい)。




母と父が本当に可愛がっている、私の2つ下の実の妹。





結衣は昔から愛嬌があって、冷めている私とは違って親から好かれていた。





…別に姉妹間での差別は今に始まったことじゃないし、慣れてるんだけど。






夢空と結衣…、この名前を付けられる前からそんなこと決められてたんだから。







そんな結衣が今、風邪をこじらせて肺炎になってしまい、入院してるんだからお母さんだってたまったもんじゃない。






いてもたってもいられないようで、いつだってソワソワしてる。





結衣が入院したのは3日前。





毎日のようにお見舞いに行っていたのに、なんで私?






思ったことが顔に出たのか、お母さんは、はあ…と大きくため息をつく。





「明日、どうしても外せない急な仕事が入っちゃったの。あんたどうせ暇なんだから、行ってくるぐらいならできるでしょ?」





「…でも、私明日は部活だし、面会の時間ギリギリになるかも…」





「部活って言ったってまた絵描いてるだけでしょ?夢空のせいで結衣が困ってたらどうすんの!部活なんて休んで明日行ってきなさい!」





普段話さないくせに結衣のことになるとこれだ。私の話も言い分も聞いてもらえない。





捲したてるように言い、一方的に切り上げられた話を、続けるなんてことは不可能で、仕方なく部屋に入った。