「よいしょ…。」








いつもみたいにキャンパスを出そうと、準備室から運んでいると急にフッと軽くなったのを感じて振り向く。








「…あ、琉空。」







「ふは、こんにちは夢空。重そうだったから、つい。」







「…そう?でも、ありがとう。」







いつの間にか来ていた琉空がキャンパスを持ってくれていたみたいで、お礼を言いながらもう出してあったイーゼルに絵を置いた。








……もう絵の仕上げに入るから、今日で完成しそう。








理緒と理緒軍団が和解して数日経った今日。









あの後は理緒の家も大変だったみたいだけど、やり手で有名な理緒のお父さんが経営を立て直したらしくて今まで通り理緒は過ごせているようだ。








でも、前みたいに理緒が威張ったりとかは完全になくなった。








勝ち気で信念は曲げない性格はそのままだけど、理緒らしさを残したままクラスに馴染んでる。








……私のクラスは、本当にどのクラスよりも変わった。









最低最悪だったのに、今じゃ居心地が良い空間になっている。










「この絵もうちょっとで完成しそうだね。」








「うん、描き直した割には結構捗ってたから。」








絵の具を準備しながら琉空と会話していると、"良かった"なんて柔らかい声が聞こえて、思わず口角が上がる。








…本当、私なんかの絵、楽しみにしてくれる人なんてこれっぽっちもいなかったのに。








「お母さんもね、私の絵楽しみにしてくれてるんだって。…今度一緒に絵の具買うよ。」








最近、絵の具の残りが少なくなった、って話をしたら一緒に行ってくれることになった。








私の絵楽しみにしてる、とも言ってくれて、泣きそうになっちゃったんだけど。








…今、お母さんは結衣だけじゃなくて、私のこともしっかり見てくれてる。