そんなわたしに気付かない編集長は、お菓子の箱に目を移す。
「やっぱり、土産はいるよな。編集部と世話になってる部署と…」
と、ブツブツ呟きながら数を数えていた。
こんなさりげない気遣いすら、会社に戻れば誰にも伝わらないなんて酷すぎる。
「編集長、お土産って経費で落とせるんですか?」
「まさか。ポケットマネーだよ」
お菓子の箱を両手に抱えた編集長は苦笑いをした。
一体、いくつ買うんだろうと思うくらいに、お菓子を山積みに持っている。
「じゃあ、わたしも出しますね。割り勘しましょ」
巾着から財布を取り出すと、編集長にしかめっ面をされてしまった。
「いいよ。オレが出すから」
「ダメですよ。わたしも出張に来てる人間ですから」
レジまでついて行こうとするわたしを、編集長は肘で押しのける。
「お前はあっちで待っとけ」
「えー?もう、ヒドイですね」
仕方ない。
本当に迷惑そうだから、ここは素直に従おう。
口では憎まれ口をきいたものの、心の中は涙でいっぱいだ。
少し離れた場所にあるソファーに座ると、レジの列に並ぶ編集長を目で追いかけた。
「相変わらず気付いてないよね、編集長。周りの女の人が、自分を見てるって」
一体どんな人なら、編集長の心を掴めるんだろう。
あ、そうか。
絵美さんみたいに、キレイな人じゃないとダメなんだ…。

