ゆっくりと髪を乾かす時間がなくて、浴衣を羽織ると一つに束ねてアップにした。
「仕方ない。後でゆっくり乾かそう」
急いで出ると、ドアの向こうには編集長が立っていて、勢い余ってぶつかるところだった。
「良かったー。編集長、忘れてなかったんですね」
ちゃんと、仕事を切り上げてくれたらしい。
ホッとしていると、編集長がボーッとわたしを見ていることに気付いた。
「どうかしました?」
声をかけると、我に返ったように「いや…」と呟くように言い、首を横に振っている。
「変な編集長」
思わず笑いが込み上げなら、その場を立ち去ろうとした時、背中越しに声がしたのだった。
「女性は、メイクやヘアスタイルで、随分印象が変わるんだな。髪をアップにしてると、色っぽいじゃないか」
「え?」
振り向いた時には、編集長はもうドアを開けて入って行った後で、どんな表情をしていたのか分からない。
だけど、わたしの胸の鼓動は速まって、髪を乾かした後もアップにしたことは言うまでもない。

