カタカタと響くキーボードの音。
会社でも、ここまで真剣に仕事をしないんじゃないかってくらい集中している。
というより、集中しないといけない雰囲気なのだ。
「うーん。なんか違うな」
編集長は肩肘をつきながら、原稿の下書きをしている。
今回の取材は、特集号として夏前に発売される雑誌に掲載予定だ。
だから、スケジュールがかなりタイトで忙しい。
普通なら根を上げそうな企画なのに、編集長はそれでもやりこなすのだから、やっぱりスゴイ人なのだ。
「編集長、わたしも手伝いますから、何かありませんか?」
一緒に出張に来ているというのに、明らかにわたしの方が比重が軽い。
仕事には厳しい編集長にしては珍しかった。
「そうだなぁ。今回のは、ちょっと急がないといけないから…」
と、考え込んだ編集長にピンとくる。
なるほどね。
わたしじゃスピードが遅いから、自分でやってるってわけか。
じゃあ、もっと仕事の出来る人を連れて来れば良かったじゃない。
なんて、完全なひがみ。
だけど、いちいち思い知らされる望みの薄さに、ため息が漏れてしまった。

