時折、漏れ聞こえる須賀さんの声もヒートアップしていた。
「いや、だからな。お前の言うことも理解出来るけど、それじゃ内容に偏りが出るんだよ」
聞く限りでは、原稿の話をしているらしい。
ある程度の編集を任されているとはいえ、最終的にGoサインを出すのは編集長だ。
だから、原稿作成の要所要所で相談するのは、当たり前だった。
だけど、こんな出張中でも電話がかかってくるんだから大変だと思う。
指をハンドルに打ちつけながら、編集長は須賀さんとしばらく話を続けていた。
そしてようやく折り合いがついたのか、「分かった。じゃあ、そういう感じにしよう。また、明日チェックするよ」と言って電話を切ったのだった。
「編集長。明日って、出張終わって会社に戻るんですか?」
「ああ。どのみち車を返さないといけないし。須賀の原稿は締め切りが近いんだ。この様子じゃ、明日は徹夜だな」
ガックリとうなだれる編集長に、自然と手が伸びていた。
「じゃあ、今日は思い切り楽しみながら仕事をしましょうよ」
勢いに任せて握ってしまった編集長の手は、思った以上に大きくて温かかった。

