「香乃子、ちょっと落ち着こう」
戸惑いを隠せない亮平は、わたしを抱きしめようとする。
だけどそれを、思い切りはねのけた。
「やめて!誤魔化さないで、返事に答えてよ!」
「誤魔化してなんかないよ。落ち着かないと、話が出来ないだろ?」
「話って?遠距離になるから、どうするかってこと?いつまで待てばいいの?一年?二年?わたしに、ずっと待ってろって?だったら、いっそ…」
イライラしながらまくしたてるわたしに、亮平も苛立ちを見せ始めた。
「言っとくけど、オレに別れるって選択肢はないから。一年だけ、一年だけ耐えてくれないか?必ずプロジェクトを成功させて移籍をして、もっと上を目指すから」
「えっ?」
耐えろって、まるで決まったような口ぶりじゃない。
亮平は、その気だってこと?
「香乃子だって、ここで仕事を頑張ってきたろ?オレがいなくても、オレとやってきたことを忘れないでいて欲しいんだ」
「何よ、それ。行く気満々なんだ。あっそう。じゃあ、それに向かって頑張って!じゃあね」
勢い良くドアを開けると、オフィスへ走った。
わたし、本当に最低で最悪だ。
大好きな人の夢を、まるで分かってない。

