美術館の大きなロゴの入ったビニール袋から取り出した一葉の葉書を、大宅さんは丁寧に写真立てに入れた。それから、その写真立てをまた元の通りにフィルムに包み、油紙のような茶色い筋入りハトロンの袋に入れた。その写真立ては、レストランに入る前に途中の雑貨屋さんで買ったものだった。大宅さんの横で私が手にしたその写真立ては木製の寄木細工のようなフレームで私が「これ面白い」と言ったのと「それ好き?」と大宅さんが言ったのがほとんど同時で、私たちはくすくすと肩を寄せて笑い、大宅さんはそのフレームを二つ手にしてレジに並んだのだった。

 包みなおした写真立てを差し出して大宅さんが何か言おうとした時、シロオウが運ばれて来た。少し前かがみに近づいていた私と大宅さんは向かい合ったテーブル越しに少し離れた。

 テーブルにのった二つのシロオウを挟んで、私たちは少し沈黙した。大宅さんは手にした包みをそっとテーブルの端にのせて、何もなかったようににこりと笑って「食べようか?」と言った。
 私はグラスを拭っていた紙ナプキンを丁寧にたたんで捻じりながらシロオウを検分した。バニラアイスの上に雪のように乗っかったかき氷。かき氷にトロリとかかった白濁のミルク。白玉が厚い硝子の器を縁取るように並んでいた。
 少しくすんだ銀のティースプーンを握りしめて、どこから手をつけようか?とシロオウを上から覗き込んで、わたしは白玉を一つ乗せたスプーンでそのまま氷をすくって口に運んだ。
 大きく口を開けたとき、耳にかけていた髪がはらりとこぼれた。トロリと滴ったみるくを受けようとしてスプーンを唇の端にあてた。こぼれた髪を反対の手でおさえようとしたけれど、その手よりほんの少し早く大宅さんの手がわたしの髪をすっとすくい上げて私の肩の向こうへと流した。
 私の髪をすくった大宅さんの指と手が触れるか触れないかの距離で私の耳と頬を撫でた。大宅さんの指先は金属に触れていたせいなのかひやりと冷たく、でも、その掌は熱かった。多分その熱が一瞬で伝わったのだ。頬が熱かった。

 口の端から滴ったミルクをスプーンで受け損ねて、私は自分のみっともなさに泣きそうになった。急いで俯いてバッグからティッシュを出そうとしたら、私の頬を離れた大宅さんの指先は不意に戻って来て、人差し指で私の顎を拭った。私は手をバッグに突っ込んだまま一瞬動けなくなった。それから拭われた顎を今更のように隠して、指先をちろりと舐めた大宅さんと目が合って私の熱を持った耳がますます熱くなった。
 
 厚手のガラスの器。バニラアイスクリームが溶ける。歪(いびつ)に丸い白玉がクリームの上に落ちて、まるで弾むようにして沈んだ。鈍い光を放つ銀色のスプーンからとろりと滴ったミルクがバニラアイスの上に解(ほど)けるように散って、私は、感覚という感覚を一瞬失った気がした。聴覚も、触覚も、味覚も、嗅覚も。ただ、視覚だけが目の前の白いデザートを映す。甘さを重ねた白い王様。ひやりと冷たく、だからこそ温もりにひどく弱い。

 とくとくする心臓をスプーンを持った手で少し押さえて、私はただ、俯いて、私はただ、白く甘いものをすくって、口に運んだ。