少しラメの入った淡いピンク色。本当はもう少し肌の色が白いともっと似合うのに。でもその色はとても女の子らしくていい。それに、オフタートルのデザインも好きだし、フレンチスリーブに近い半そでのデザインも気に入っている。それから白い膝丈のプリーツスカートにする。この前のクリスマスに母にねだって買ってもらった膝までのブーツを履いていくとして、タイツは何色にしようか。
 その週の土曜日は穏やかに晴れていた。少し肌寒かったけれど、来る春に心が躍るような気持ちで私は少し薄着かなと思いながら服を選んでいた。相手が男の子でも女の子でも、毎日制服を着ている女子の週末のお出かけは気合が入る。たとえそれが親と買い物に行くのだとしてもだ。だから私はごく普通に自分ができるだけ可愛く見えるような春らしい装いをあれこれ選んで、最近一番気に入っている茶色い革のショルダーバッグを持ち、色つきのリップをした。それから白っぽいベージュのコートのベルトを背中でリボン結びにしておく。

 上野駅の公園口というのは「ここ、上野?」と言うくらい案外小さくて上野公園に面している。そこに降りたことがなかった訳ではないのだけど、私は勘違いをしていて、大きな歩道橋の上のパンダの前で待っていた。朝の10時に待ち合わせていた人たちは、どんどん組みになって歩道橋の向こうへと渡って行く。でも、なぜなのか私は少しも不安ではなくて、時折吹く少し温度の低い春の風に吹かれたり、歩道橋の下で忙しく行き来する人を見たり、向こうに見える上野公園の木々が揺れるのを眺めたりしていた。
 時計の針が多分10分かそこら過ぎた頃に、私の携帯電話が震えた。
 「もしもし?」
 「杉野?」
 「うん。」
 「えっと…。どこ?」
 「え?もういるよ?」
 「どこにいるの?」
 「パンダの、前…?」
 大宅さんは「待ってて」とか「どこのパンダ?」とか、何も訊かずに漫画で言えば「ガシャン」という音を立てるようにして電話を切った。私は呆けて電話を見つめて、「何なの?」と思わずつぶやいて、それからにわかにすこし憤りを感じた。遅れて来て「どこ?」って、ガシャンって!
 広い歩道橋を走ってくる人が見えた。それは、どうも大宅さんらしかった。私はまだ少しムッとしていたのだけれど、走ってきた大宅さんを見て少し可哀想になって、のんびりと歩道橋を大宅さんの方へと歩いていった。
 「良かったー!!!」
 と、大宅さんは息を切らした。
 「ブッチされたかと思った。」
 「ブ…?」
 「公園口、って言わなかったっけ?」
 「公園口…、じゃ、ないの?ここ…」
 「ここはパンダ橋口だよ…」
 「ごめん…」
 「いいよ、会えたから。」
 大宅さんは首を傾げてさも可笑しそうに笑った。