大宅さんから渡された小さな紙片には、カクカクとした大宅さん特有の文字でメールアドレスが書かれていた。間違いようの無い几帳面な文字だった。
「chi-hero@・・・」
 大宅千尋、おおたかちひろ。ちひろのひろ、の部分がヒーローになっている。
 あて先に丁寧にメールアドレスを打ってまずは短めに送信した。
 『杉野です。デートのお誘いありがとう!これが私のメールアドレスです。届きましたか?』
 部屋に持ち込んだ紅茶を飲もうとしてふうふうと息を吹きかけていると程なく返信が来た。
 『届いた!!── メールどうもありがとう!届いたよ。少し不安だった。でも良かった。デートですが、どこか行きたい所ある?』
 デートで行きたい所、ねえ。たとえば相手が好きな男の子とかでデートするんだったらやっぱり、ディズニーランドだとか、水族館だとか…。私は大宅さんとディズニーランドにいるところを想像してみる。特に違和感はない。

(デート、ねぇ)

そこで今度は手をつないでいるところを想像してみる。それでも特に違和感はない。でも、それだからって大宅さんとディズニーランドとか水族館に行こう、というのも少し違う気がして、昼間に大宅さんがいくつか考えているところがある、と言っていたのを思い出した。

 『昼間言ってた大宅さんが考えているところってどこ?』

 正直に言って、どうして大宅さんが私に「デートしよう」なんて言って来たのか不思議だった。中三、高一、高二、と3年間同じクラスにいたけれど、特に仲が良かった訳ではなかった。覚えていることと言えば、大宅さんは美術部で彼女の描く絵がとても上手かった事。一年生の時の文化祭実行委員会でポスターを一緒に貼った事があった。それから…何かあったっけ?
 大宅さんは大体美術部の人たちと一緒にいて、それでなければ一人でいて、どちらかといえば真面目な部類の学生で、確かに少し変わっていると思うけれど、無口ではなかった。同じクラスにいるときは席が近いときは少しは話したことがあって、高三になってからはクラスも違ったし廊下ですれ違って挨拶することもあったけれど、卒業間近になってあらためてデートしようと思うほどの印象的な出来事は思い出せなかった。

 私の携帯電話がまた震えた。
 『私が考えているのは、上野。絵を見てもいいし、散歩もできるし、ショッピングも出来る。どう?』
 『うん。いいね。上野はあまり行った事ないからぜんぜん分らないので宜しくお願いします。いつにする?私はいつでも♪』
 『じゃぁ、今週末でもいい?土曜日、10時に上野の改札で。公園口で。』
 『はーい!OO日、10時ね♪楽しみにしてます♪』
 『こちらこそ♪オヤスミ!』

 それから私はシャワーを浴びてベッドに入って寝た。