女子校というのはもちろん、学生には女子しかいないのだが、学校の先生や近隣の学校に通う学生を含めた通学での片思いやら(もちろん両思いやら)、塾や習い事での出会いやら、兄弟や友達の紹介やら、文化祭での交流やらで、すっかり男性との色恋が無いという訳でもなかった。
 そういった男性との出会いがあった上でも、女子校特有の憧れの先輩とかかわいい後輩とかで、文化祭や体育祭で黄色い声が上がる事もあるし、実際私のお弁当グループの飯野はそういうキャラで学校生活を乗り越えると決めたらしく年中無休でイロオトコを演じていた。
 「付き合ってるのは山口だけど、ほんとは、杉野が本命。朔美って呼んでい?どう?付き合わない?」と彼女は高校二年で同じクラスになってからこの2年間、何かと言えばそう言って、二つに結んだ私の髪を手に乗せてニヤリとし、私たちの周りを賑わせていた。(でも実際に山口さんと付き合っていた訳ではなくて、山口さんには彼氏がいたし、二人はただの幼馴染だった。)
 もちろん私も本気にはしていない。飯野は、軽音楽部の後輩のその名も冷泉(れいぜい)という一年生にも「可愛いなあ、冷泉~」なんて言っているのだった。

 そういう私は特にどうということもない女子校生活を送っていた。男の子がいなくてつまらないと思ったこともないが、男子との関わりが全然無かった訳でもなくて、文化祭に行くとか、文化祭で出合った男の子達とグループデートに行くとかいうことになったら、時折は声を掛けてもらうこともあったし中学校から高校を通して、通学途中の男子学生に声を掛けられたり手紙を貰ったりする事もあった。けれど、これは多分私だけではないと思うけれど、そうやって出会う男女と言うのは明らかに不自然に惹かれ合わないといけない。
 授業中に見せる彼の真剣な顔が好きとか、部活動での一生懸命な姿が好きだとか、休み時間に男子だけで笑っている姿が好きとか、そういう彼らの一面を見ることなんていうのは出来ないのだから、どうしたって、たとえば顔が好きだかとか声が好きだとか話し方がいい、とか、諸々の条件を積み重ねて、グループで始まるならこの4人の中ではあの人、だとかいう恋愛の仕方をしていくのだった。それで相手の男の子もこちらをいいな、と思ってくれたとして、二人きりで会ったとしても、二人きりになると途切れる会話やら、それまで気付かなかった癖だとか、小さな馬鹿げた事で「なんか違う」と思う。

 高校を卒業する間近、私には恋人も、恋人未満の男子もいなかった。それよりも半年前に、手紙を一通、いつもの電車を降りた所で受け取ったのだけれど、返事に迷っていたら、翌週に彼は別の女の子と歩いていた。男心とは何なのか、とひとしきり考えたけれど、答えの出ない哲学的な問いはうっちゃって、とにかく私は、附属の大学の推薦を貰わないといけなかったのでそれで半年は瞬く間に過ぎてしまった。