天井に揺れた影がまるで手招きするように見えた。ベッドサイドに飾った寄木細工のフォトフレームから目を逸らし、私は青春時代の思い出の中から現実にもどって、そっと、いま、隣に眠る人の様子を伺う。癖のない髪。横を向いているからシーツの方へ流れた前髪をすくって耳にかけてあげると、くすぐったいのか少し眉を顰めた。そのまま頭を撫でていると、うつ伏せた身体をねじる様にして上げた手で私の手首を掴んだ。寝ているくせに無意識にそんなふうに私を捕まえようとする仕草は私を得意な気持ちにさせる。
 明日、私はウェディングドレスを着る。この人と一生を共にしていくと誓う。真っ白なサテンのドレス。レースとチュール、スパンコールと淡水パール。白い輝きを幾重にも重ねたドレスを着て、幼い頃に夢見たお姫様のように、私は、一生変わらないと愛を誓う。

 タオルケットを肩までかけて、私はまた天井を仰いだ。
 「さく?」
 そうやって寝覚めに私を呼ぶ声はいつも少し掠れている。私はその声がとても好きだ。
 「うん?」
 先程耳にかけてあげたはずの前髪はまたシーツの方へ流れていて、その髪を煩そうにかきあげながら肩肘を突いた、私の王子様は目を眇めて問いかける。
 「眠れないの?」
 「うん。なんとなく。」
 「明日・・・。緊張する?」
 「うん・・・」
 「そか・・・。──よおし!疲れたら、きっとぐっすり眠れるっっ!」

そうやって冗談半分に、真剣な目をして、また、私にキスをする。
額に。瞼に。頬に。耳に。肩に。
吐息混じりに名前を呼んで、私は眠りを誘うキスを体中で受け止めた。


おわり