「お嬢様、今朝の朝食は如何ですか?」


「……いつもと変わりない、……美味しい」


ぽつり、ぽつりと、朝食のスープを口に運んでいくローラ。
無表情にも見えるが、ほんの少しの顔が柔らかいのは気のせいでは、ないはず。

本当に美味しいのだろう。


それはもちろん、ローラの好みの味をすべて熟知したアッヒェンベルが、ローラの為だけにローラを想いながら、海よりも深い愛情を込めて作ったからであろう。


そんな彼も、ローラのその一言の為に作っているようなものである。

ローラのその微妙な表情の変化さえ見逃したくないのだ。



「お嬢様のそのお言葉だけで、このアッヒェンベル、幸せで御座います…っ!!!」



カシャンと食器の音が鳴り響く。


「……まさか、今朝もお前が作ったのか…?」


「もちろんで御座いますお嬢様!このアッヒェンベル、お嬢様の為でしたらどのようなことだって致します」


声を高らかに宣言するアッヒェンベル。
その顔は窓から射し込む朝日に照らされ、更にキラキラと輝いている。



「お前は、またシェフたちの邪魔をしおって…」


アッヒェンベルのその気持ちが嬉しくない訳ではないが、他の者たちの仕事の聖域というものがあるだろうに、とローラはいつも心配していた。

このクェンベル家に仕えてくれている者たち、全てに心地のよい仕事場を提供したいと思っている。



果たしてこの執事、その思いに気付ける日が来るのであろうか…。




しかし、アッヒェンベルにとっては、
1にお嬢様。
2にお嬢様。
3、4もお嬢様。
5もお嬢様。

ローラが喜んでくれることが、総て。

ローラの為に尽くせることこそが幸せ。

ローラの為であれば、何でも尽くす。


それが彼のお嬢様溺愛論。