「アッヒェンベル執事長、黙っていれば格好いいのに」


「ほんと勿体ないわよねぇ…」


そんなことをぽつりぽつりと話し込んでいるのは、メイドの女性二人。

屋敷の厨房から食堂広間へと朝食を運ぶ途中であった。



厨房の中では、シェフたちが忙しなく動いている。

そんな中、シェフに混ざり何故かアッヒェンベルの姿が。



「朝の弱いお嬢様は、あまり朝食はお召しにならないので、軽いもので十分です!なので、私が作ります」



困り顔のシェフたちを余所に、手をテキパキと動かし、次々と料理を完成させていくアッヒェンベル。



アッヒェンベルは、ローラのこととなると分野問わずすべてのことをこなしてしまう。
もちろん、周りの者の迷惑などは露知らず。



こうして、アッヒェンベルが厨房に出入りし、勝手なことをしてしまうのはもう既にシェフ一堂、使用人の間では見慣れた光景。

だが、シェフたちにもこの屋敷の料理を手掛ける仕事を任されている身。
アッヒェンベルには、そろそろ身を引いていただきたい所。




「嗚呼!この私が作ったものをお嬢様が口にしてくださるのかと思うと。私は…私は…っ!!」


そう目を潤ませながらも、手は休まないアッヒェンベル。

近くで作業をしていたシェフは、引き気味である。






「ああ、ほんと残念……」

「せっかく目の保養なのにね」



光景を眺めていたメイド二人は、そそくさと御膳の用意の為、厨房を離れていった。