「ですが!!お嬢様!!私はこんなお嬢様を置いて、お側を離れることはできません!!」


先程よりも手を握る力を込めるアッヒェンベル。



あまり、熱で苦しんでいる所を見られるのもどうかというのが、乙女心。


そんな時、ちょうど部屋をノックする音が響いた。


大きな声を出せないローラの代わりにアッヒェンベルが返事をする。

すると、扉を少し開け顔を覗かせる使用人の者が。


「…アッヒェンベル様、旦那様がお呼びです」



いくらお嬢様命のアッヒェンベルであっても、このクェンベルク家の主である方の呼び出しとあらば、行かなければなるまい。


だが、こんな状態のローラを放って行けるアッヒェンベルではない。



「父様の所へ行って、あげてくれ」



なかなか離れようとしないアッヒェンベルにローラが言う。

アッヒェンベルがローラのことを分かっているように、ローラもまたアッヒェンベルのことは其れなりに分かっているつもりだ。



「心配するな、大丈夫だ」


「…お嬢様……」


「私だって、もうそんな子供ではない…。父様がお前を呼ぶんだ、何かあったのだ…」



ローラに言われては仕方がない。アッヒェンベルは、渋々とローラの手を離し、立ち上がる。



「お嬢様、少しの間このアッヒェンベル、お嬢様の側を離れますが、直ぐに戻ります!」



離したばかりのローラの手の甲に口付けを落とし、涙ながら、使用人と共に部屋を出ていくアッヒェンベル。



アッヒェンベルのいなくなった部屋には静寂が訪れた。

自分の荒い呼吸だけが、聞こえてくる。