悲し笑いの横顔


「何してたの、こんな遅く。」

「私は……ただの仕事帰りです。」
 何て言おうか若干詰まりながらも彼の問いに答える。

「仕事帰りに公園?
なんか家に帰れない用事とか?まさか家出じゃないでしょ?」

「まぁ、まぁ……」
 軽い雰囲気で次々に言葉を紡いでくる彼に、そう言って答えを思わず濁す。

この人すごいな。ふつー初対面でそんなこと聞けないよ?真昼間ならまだしも、夜遅くにブランコ乗ってる怪しい女だし、私。

それこそ、彼がお化けかと思ったみたいにさ。

「そっちこそ、なんでこんな遅くに公園…」

「あぁ、俺はそこのレストランに勤務してるから。」
 見える?と彼は公園の東側入り口の方を指さす。手前に生えている木々のわずかな隙間から、薄黄土色のそれらしき建物が覗けた。

「そうですか。」
 だからこの人からさっき、良い匂いが香ってきたんだ。コックコート着ているワケにも頷ける。

「で、君は?」
 彼は今だレストランの方へ視線を向けていた私に、顔をぐいと動かし回り込んできた。

「ちょっ。」

「え?あぁ、ごめん。」
 距離がいきなり近づき、思わず後ずさってしまった私に、彼はくしゃっとまた笑う。

「俺こういうの平気なタイプだから。」

「何ですか、こういうのって。」

「パーソナルスペース狭いんだよね。」

「なるほど。」
 …私のパーソナルスペースはだだっぴろいんですけどね。

「あ」

「今度は何ですか。」
 彼は私の顔に指を指す。

「今、私のパーソナルは広いって思ったでしょ。」

「……。」

「図星。」
 くすっと彼は笑って見せた。