「お疲れさまでした。」
「お疲れー。」
返事し返してくれた職場の人に会釈を返して、私は会社を出て行く。
「さむっ。」
外に出たとたん、冷たい風が私を襲った。
思わず、巻いている桃色のマフラーに顔をうずめる。雪こそ降っていないが、12月後半―――寒気は厳しい。
髪とマフラーではかばいきれない両耳がツンと痛かった。
そのまま歩を進めるにつれて、騒がしい大通りから少し静かな通りへと周りが変化していく。
会社から駅まで約10分。
寒さから逃げるように、私は駅の階段を駆け足で上った。
帰宅ラッシュは終わったようで、あがったホームにはぽつぽつとまばらにしか人を確認できない。
そりゃそうか、もうすぐ21時だもんなぁ……。
はぁと空中に白い息を吐いた。
数分待って、来た電車に乗り込む。座席もちらほら空席が見られたが私は座らず、ドア近くの邪魔にならないところへ立っていた。
電車内では音楽を聴いている人、目をつむっている人、携帯を見ている人が大半の中、私はぼーっとそのまま窓から外を覗くだけ。
一駅過ぎて、ようやく携帯を鞄から取り出した。
連絡0件。
金曜の帰りの電車――…いつもなら、彼から『日曜どうする?』って当たり前のように連絡が来ていた。
でももう終わり。
この間の日曜、私たちは終わったんだ。
浮気したと打ち明けられて、理由を聞くわけでもなく、怒るでもなく、わめくでもなく。
「じゃぁ。」
「うん。」
それだけ。
3年も付き合ったってのに、終わりはやけにあっさりしていた。
付き合う前は、しつこいぐらいにデートをしてたってのにね。
プシュー…私の背の後ろのドアがまた開く。冷たい風が私を襲う。
「ばかやろう。」
駅長さんの笛の音とドアが閉まる音が騒がしいのをいいことに、私は心内でつぶやいた。
彼と別れたからといって特に泣いていなかった涙が、変なものでぽろりと目からこぼれ落ちる。
周りに気づかれない様、それが欠伸のせいだと思わせるように口に手を当てて涙を軽く拭った。
平気だったくせに、
彼と別れても、彼がいなくても、この一週間仕事頑張れてたくせに。
帰り道に涙がこぼれるなんて―――
「っ。」
大丈夫、別にあんたなんかいなくたって、私これから生きていける。
欠伸という理由ではかばいきれない涙を、私は顔を伏せ、寝たふりで誤魔化した。