「無理に元気出せとは言わないから。
辛いときはちゃんと連絡してきなよ、あんた意地っ張りなところあるから。」

「うん。」
 彼女のセリフに私は微笑み返す。

本当こういうとき、無駄に長い間付き合っているだけはあるなって私思うよ。紗香が私のこと一番に分かってくれてんじゃないかな。


「で?そのコックコートの男とはそれっきりなの?」

「うん。」
 あの日と同じぐらい遅い時間に帰ることがないのもあってか、公園の前を通っても彼の姿を一度も見かけていない。レストランは、明かりがついているから仕事はしているハズ…だけど。

「まぁ、そいつも浮気してるんじゃねぇ。
良い人なんだったら、その人に次恋できたらいいんじゃないかなって、勝手に私思ってたけど。」

「いやいやいや。」
 まだ恋愛は当分いいよ。なんか疲れちゃったし……

「それにしても、世の中の男は浮気だらけだね。
あんた元カレのこと殴ったりしなかったの?一発喰らわせたら、すっきりしたかもだよ?」
 エアーグーパンチをして見せる紗香に、ハハハと私は思わず笑った。

「茜はなんだかんだ優しいから、そんなことしないか。」

「紗香もそう言いながら、しないくせに。」
 5年も付き合ってるってのに今だ彼氏にぞっこんなこと、私知ってるんだから。

「何よ、そのにやにやした目はー?」

「別にー。」
 誤魔化すように私はお水を喉に流し込む。


「だけどほらさ。」

「んー?」
 口を開いた彼女を見つめ返す。

「男なんていっぱいいるんだから、そんな考えすぎないでゆっくり好きになれる人探しなね。
コックコートの男も、元カレも最低やろうなんだから。」

「うん。」
 最低やろうか。


「…それも、そうだね。」
 網の上に私はまた新しくお肉を焼き始めた。