もうすぐ、学校が始まるので、しぶしぶ
流と共に登校するのを余儀なくされる。季節は変わっておらず、梅雨だった。もうすぐ、夏。あの忌々しい、夏。
「遥菜」
流が私の名前を呼ぶ。私は顔をあげ、反応をする。
「どうした?今日の遥菜、おかしいぞ?
なんかあったか?」
私は、本当の出来事を言うのをとどまる。
言ったところで、信じてもらえるかの保証もない。それに...流と分かれたくない。せっかくの...もう、二度とない、奇跡なのだ。
「...なんでもないよ。」
笑顔で言ってみせた。流は、少しぶすっとしていたが、私の返事を聞いて、
「...そっか。なんかあったら、言えよ」
と笑って返した。
こっちの流は笑顔は変わらないらしい。
性格が少し真面目で、私に対して優しい。
それが、こっちの流。中身が好きと思ってはいるけれど。顔やしぐさや、声や笑顔が一緒だと、面影を重ねてしまう。
気づくと、坂が見えた。下り坂。
自転車のスピードを緩める。あっちの、流を、好きな人を思い出して、少し酔いかける。何かに気づいたのか、こっちの...流も、スピードを緩める。
「え?珍しいね、流。スピード緩めるなんて」
「は?何言ってんだよ。普通、緩めるだろ?こんな急な坂」
「あ、そうか...ごめんね」
「本当、大丈夫か?...遥菜」
疑われるのもいやで、ごめん、ごめん。を繰り返す。...こっちの私は。どんな風に接していたのかも、分からない。私はケラケラと笑って誤魔化すしかない。
流は、ずっとそれから、黙って私にスピードを合わせていた。