そして気づいたら彼とようやく思えるような、形が整った顔に白い布がかけられていて、彼の両親と弟と、私の両親が、ただただ、泣いていた。私は泣いていたのか、それとも泣けなかったのか分からない。私は、彼の白い布をじっと見つめていた。
そのまま、彼は葬儀を迎え、明るい同級生がズラリと彼の前で泣いていた。調子のいい男子も、彼のことが好きだった、という女子も皆そろって泣いていた。
私も泣けばよかったのに、泣けなかった。
あまりにも突然過ぎて、まだ私は心に現実味が無かった。
―――これは夢だ。また、明日になったら、明るくて爽やかな笑顔が見れるんだ。
また、あの下り坂を一緒に下っていくんだ...
なんて、考えていた。簡単にいえば、認めたくなかっただけだ。私はまだ、すぐ泣けるほど、大人じゃなかった。
彼は煙になって、空の一部になった。
周りが泣き崩れていた。将来を期待される、テニスが好きな幼なじみだった。
調子が良くて、そのくせ、テスト前はいつも私が勉強を教えていた。私のことをブスとか、からかっていた。
―――それでも彼のことが好きだった。
そのまま、空を眺めていてようやく、泣いた。声を上げることは無かったけれど、涙が、ポロポロと落ちてきた。
そんな、私の心情を察したのか、翌日は雨だった。

――― 夏は嫌いだ。彼のことを嫌でも思い出す。家の前の坂も嫌いだ。自転車も。
皆、笑顔を見せてきたのに、一年経っても、私は彼を引きずっている。ズルズルと、未練を引きずっている。
今日も、彼を夢で見られますように...
そんな期待を込めて。ベットに入る。
涙はもう出ない。一年間、ずっと泣けるように、人間は出来てない。

そして、目をとじた。
風の音、かすかなテレビの音が耳へ入ってくる。久しぶりにいい夢が、見られそうだ。

―――明日も、その明日も、その次の月も
、次の年も...彼を思い続けると、その日までは思っていた。