アイツ限定




「千夏もしたいなぁ~…。」



あたしの中で、何かが生まれるのがわかった。

憎しみ?

ちがう。

悲しみ?

ちがう。

怒り?

ちがう。


何かは、あたしでもわからない。

あえて、言葉にするならば、"恐怖"という言葉が一番近いかもしれない。

男嫌いのあたしは、女なんかに恐怖心を抱いたことは今まで一度もなかった。

だけど、たった今、あたしの体は、なぜかこの千夏を恐れている。

なぜだかはわからない。

体格的にも、あたしの方が断然有利なのに…なんで?



「…千夏、バスケできるの?」



あたしは、平常心を装って、返答する。

さっきから、手が震えて仕方がない。

今朝の光景が、あたしの脳裏にプレイバックする。



「ん~…。体育とかでしたくらいだよぉ~。でも、マリもそうでしょ?」



この子は悪くないんだ。

この子に恐怖心を抱いているあたしの体がおかしいんだ。

今朝のことは忘れよう。

もう、なかったことにしよう。

信じるんだ、あたし。

村上を。

あたしを裏切らないって言ってくれた。

信じろって言ってくれた。