「…多分…なおったわけじゃない。だけど…あんたのここは…安心する…」
あたしがそういうと、村上は腕を解き、もう一度あたしの頭を優しくなでてきた。
「それでいい。他の男とも大丈夫になったら俺が困る。」
そんなことを言って来る村上の表情はいつになく、穏やかだった。
あたしの顔が徐々に赤くなっていくのがわかる。
さっき、やっと引いたと思ったのに、再び熱くなってくる顔。
だけど、村上は余裕そうに、あたしに背を向けて歩き出し、フェンスに寄りかかって、海の方を眺めだす。
風に揺れる村上の少し茶のかかった髪。
太陽がまぶしいのか大きな目を少し細めて、海を見る。
いつか、村上の笑顔が見たい。
村上の表情を取り戻したい。
あの日のように無邪気に笑ってほしい。
村上があたしにもう一度信じるチャンスをくれたように。
あたしもなにかしたい。
そう考えれば、あたしに思い浮かぶのは1つのことだった。
「ねぇ、放課後…バスケしようよ。久しぶりに。」
村上にとってバスケとは苦い思い出しかないのかもしれない。
だけど、あたしと貴方だ出会えたのは、バスケがあったからで、決して苦い思い出ばかりではない。
村上の笑顔を奪ったのがバスケなら、村上の笑顔を取り戻すのもバスケ。
あたしの心を凍らせたのが人なら、あたしの心を溶かすのも人のように。