「…まぁ…少なくとも俺はな。お前、バスケセンスあると思うぜ。」
「そう…なのかな。」
あたしが少し顔を上げると、隣で男の子が無邪気に笑っている。
この笑顔が、あたしの冷めた心を溶かしていってくれるように思えた。
なんだか、心が温かくなって、キュッとなったのを覚えている。
すると、男の子はゆっくりと立ち上がって、ベンチの下に置いてあった、エナメルバックを片にかける。
小さな体に不釣り合いな大きなエナメルバック。
そして、あの古びたバスケットボールをあたしにそっと差し出してきた。
「やるよ。このボール。多分もうあんたと会えないから、記念にこのボールやる。
きたねぇけど、もし、お前がバスケに興味あるならここで練習すれば?
このボール使って。」
目の前には、少し砂のついた、少し黒ずんでいるバスケットボール。
あたしはそっと両手でそのボールを受け取った。
「この町…出てくの?」
あたしがそのボールを大事そうに抱えて、目の前に立っている男の子にそう問いかける。
「ああ、まぁな。父さんの転勤とかでな。」
男の子は少し悲しそうにあたしから目線をそらしてそういう。
「そう…なんだ。…また会えるかな?」
「さぁな…お前がバスケしてたら会えるかもな。」
「…あたし、バスケするよ。絶対にあたし強くなるから。」
あたしがそういうと、男の子は少し照れたように笑ってくれた。


