優兄は無邪気に、大きな目を少し細めて笑う。
その時にできる、チャームポイントのえくぼがくっきりとあたしには見えた。
真っ黒な優兄の髪は、寝癖なのかところどころがはねていた。
優兄は、専門学校に通う1年生。
啓兄とは対照的学校では下位争いをしている優兄。
少し、啓兄の知恵を分けてあげたいと何度思ったかわからない。
「優兄…なんであたしよりも遅いわけ?」
あたしはようやく柔軟がおわり、ゆっくりと、優兄の前に立つ。
「おうっ!ちっと、道着の帯探してたんだよ。…っじゃ、はじめようぜっ!」
いつの間にか、場を仕切りだした優兄。
啓兄は、飽きれた顔ながらも、まぁいいや…なんていいながら、優兄の指示に従う。
そして、いつも通り、軽くアップをしてから、組手にはいる。
5分対戦、1分休憩1セットで、これを6時になるまでの約1時間エンドレスで行う。
対戦相手は、負けたほうが、変わるという方法。
始めは、あたしは負けてばっかりで、連続してやることはなかったけれど、今では勝つことができるようになってきた。
傍から見れば、あたしたちのこの姿は、理想の兄弟像だと思う。
あたしも啓兄と優兄のことは、今では大好きだし、本当に頼りにしている。
だけど、あの事件があってからの約1年間は、あたしにとっても、この2人にとっても地獄だったと思う。
男の人の声でさえ、恐怖で震えたあたし。
家の中に男がいるというだけで吐き気がした。
それが、血のつながった兄弟だっだとしても。


