そう思った。
「乗れよ。おごってやるから、どっかで話そうぜ」
俺はその言葉に吸い寄せられるように、後ろのドアを開けて車に乗り込んだ。
「ようこそ、村山聖也君」
そういって車を発進させた。
車の中に響く、ロック系の音楽が妙に俺の心をそわそわさせた。
松木茉莉花。
俺はあいつのことをずっと前から知っていた。
中学ころから?
ちがう、もっと前から。
あいつは多分そのことには気づいていない。
「なぁ、お前ってさ。本当にマリの彼氏なわけ?」
こいつのマリって呼ぶ言い方が妙にムカつく。
「ちがいます」
低い声で、返答する俺。
俺の目線は窓の外。
この空間からはやく出たい気持ちでいっぱいだった。
たばこの嫌なにおいがする車内は、吐き気がした。
「ふーん。だと思った。だって多分あいつもう一生男と関わらない気でいるからねぇ。ほんと、まいったまいった」
そういって一人で笑っているこのおっさん。


