あわあわ。
と焦りながらも冊子をかき集める私。
そんな私の後ろから、「ちっ」と短い舌打ちが聞こえた。
振り返ると、また、かすかにシトラスの香りが香る。
えっ。
と思ってその方向に目を向ける。
すると、さっき私の体を支えてくれた彼が散らばっている冊子を集めていた。
黒髪で、長身。
切れ長な目で、きれいな肌で整った顔。
どっちが女の子なのかわからないくらいで、魅入ってしまうほどの“イケメン”という部類に入る彼。
そんな彼が、私の目の前にいる。
「なに」
仏頂面で、その切れ長な目で睨まれたら。
怖い。
その一言だった。
「あの…」
「喋ってる暇あったらさっさと拾え」
優しいのかそうじゃないのか。
きっと彼は、優しくない。
なんとなくこの時はそう思った。
そう。
この時は。
