それは、一瞬の出来事だった。
すべてがスローモーションのように、私の目に映る。
ダンボールの中にはいっていたたくさんの冊子のようなものが階段の下に散らばる。
私の体は、もうすでに階段の下に落ちているはずなのに、まだ、立っている。
というか、重心が後ろにかかりすぎていて、誰かに体を支えられているよう、な…。
「危ねぇ…」
低い声で、焦ったように聞こえるその声は、きっとすぐ後ろ。
私の肩はしっかりと掴まれていて、ふわりと爽やかなシトラスの香りが鼻をかすめた。
「あっ、」
混乱していた頭の中がやっと整理されてきて。
「すっ、すみません!」
肩を掴まれていた手を振り払うようにして振り返り、頭を下げる。そうして急いで、階段の下に散らばる冊子を集める。
(これは自分の不注意だ…)
そう自分に言い聞かせるように唱える。もう、こんなミスしない。
必死で集める冊子は別にそこまで分厚いわけではない。むしろペラペラだ。
だけど量が多いかすごい重さになっていたわけだ。
