私が彼と初めて出会ったのは、小学三年生の頃の、夏。



私は浴衣を着て。
ちょっとおめかしをして。
少し伸びた黒い髪は、束ねて。
カランコロン、下駄をならして。
左耳たぶの穴には、紅い雫のピアスを揺らして。それは先ほど開けたばかりの穴で、少し痛い。



笑うわけでも、泣くわけでもなく。




すれ違うたくさんの人々は、楽しそう。

私はただ歩き続ける。




―――――「無駄遣いするんじゃないぞ」




家を出る前に渡された千円札の紙を右手に握って。





「わっ」

「危ねぇよ嬢ちゃん」



上を向いて歩いていたせいですれ違うおじさんにぶつかって体がよろめく。おじさんは大きな重たそうなダンボールを抱えるようにして持っていて、どうやら屋台主さんのようだ。




「ねぇおじさん」




私は上を向いたままおじさんに声を掛ける。私の声で立ち止まったおじさんは振り返って首をかしげて私を見る。





「私、どうすればいいんだろう」

「うん?」





こんなこと見ず知らずのおじさんになんか聞いてもどうにもならないなんてことは、まだ幼い私にもよくわかっていた。

なにも、変わらないことも。





私はおじさんに有無を言わせる前に再び歩き始めた。前に、もっと。一歩、前に。