今日も午前中、美波は大好きな阿藤先輩と出かけていたらしい。
阿藤先輩は二年先輩で、もちろん独身。外回りに出掛けたら、必ず寄り道をしてお茶をご馳走してくれるらしい。



外回りの話を聞かせてくれる美波は、いきいきとしている。
かく言う私は……



「そうだ、聞き忘れてたけど姫野さんと何かあったの?」



いやん、聞かないで。
忘れててくれたらいいのに、どうして思い出しちゃうのよ。



火曜日の外回り以来、美波とゆっくり話す間がなかったから安心していたのに。



だって、あんな不審な姫野さんのことを何と言って説明すればいいのか。どう受け止めればいいのか、わからないじゃない。



もう、いいから蒸し返さないで。
あんな姫野さんは、思い出したくない。



「何にもないよ、ただ忙しかっただけ……」



言いかけて思い出した。
茜口駅にいた橘さんのこと。
少し凛々しくて、制帽がにあっていた。



「何? どうしたの?」



私が言葉を失くしたのに気づいて、美波が素早く問いかける。身を乗り出すように、食いついて。



さすが、察知するのが早い。侮り難し。