姫野さんも何やら考えながら歩いているらしく、時おり口を固く結んではフェンスの向こうへと目を向ける。



やがて、駅前の交差点は赤信号。
私の半歩前を歩いていた姫野さんが、足を止めて振り向いた。



「いろいろと浮かんでは消えていくよ、やっぱりイメージしてるだけじゃダメだなあ」



大きく息を吐いて笑う姫野さんの顔を見たら、ほっとした。このまま黙り込んでしまったら、どうしようかと思っていたから。



「そうですね、今思ってることと実際とは一致しないかもしれないし、難しいですね」
「ああ、データを見直しながら考えなきゃな……」



と言って、姫野さんは口を噤んだ。
さっきまでの笑みが顔から消えていく。



交差する車道の信号機が黄色から赤に変わり、往来していた車が停まった。



「松浦さん、あのさ……」



姫野さんが言いかけるのと同時に、信号機が青に変わった。キャリーバッグを引っ張ったビジネスマンが私たちを追い抜いて、横断歩道を渡っていく。



つられるように渡り始めた姫野さんの足取りは、どこか重く感じられる。言いかけた言葉の続きは気になるけれど、私から聞き返していいものか。