彼の言った言葉の意味はよくわからなかったけれど、彼の目に見つめられると知らず知らず引き寄せられてしまう。
どうしてなのか、自分でもわからない。
ふと顔を上げたら、姫野さんの視線が私に注がれている。慌てて彼の姿を掻き消したけれど、姫野さんにはどう映っているのだろう。
「あの、変なことは言われてません。橘さんは駅員室の中で待ってたら、と声をかけてくれただけです」
はっきりと言い切った。
姫野さんは小さく首を傾げる。まだ納得しきれないと言いたげな顔をして。
だけど私はこれ以上、何と言ったらいいのかわからない。
さっきの橘さんと私を見て、姫野さんが誤解しているのは事実。誤解を解きたいと思うけれど、答えが見つからない。
だって、私自身がよくわかっていないのだから。
わかっていることといえば、自分の中で橘さんが少しずつ美化されつつあること。

