橘さんを追いかけて、振り向いたのは姫野さんとほぼ同時。振り向きざまに一瞬だけ、眉をしかめた姫野さんと目が合った。



そして私の目に飛び込んだのは、コンコースの向こうへと駆けてゆく橘さんの背中。



南口の階段を上がった辺りに中年夫婦が居て、傍には小さな男の子が泣いている。ぱっと見た感じでは、男の子は四歳か五歳ぐらい。中年夫婦の子供にしては年が不釣り合いに見えた。



「迷子か?」



姫野さんに言われて、ようやく納得。中年夫婦は困った顔をして、男の子に手を触れようとしていない。



「迷子、みたいですね」
「あいつ、よく気がついたなあ」



感心した声を漏らす姫野さんを横目で見て、すぐに視線は橘さんへ。



おそらく中年夫婦は泣いている男の子を見つけて、どうしようかと困っていたところ。
橘さんは、どうするんだろう。



駆けつけた橘さんが、ようやく男の子の肩に手を触れた。
簡単な会話を交わして中年夫婦を見送ると、男の子の肩を抱いて駅員室へと戻ってくる。常に男の子に話しかけながら。