君と夢見るエクスプレス


何故だろう。
コンコースを見渡す橘さんの横顔から、目が離せなくなっていく。



今、彼の目は何を捉えているんだろう。



「姫野さん、電話長いなあ……」



と言った彼の視線を追うと、姫野さんはまだコンコースの隅で電話中。



いつの間にかバッグを足元に置いて、書類まで手にして話し込んでいる。かなり取り込み中のようだから、もう少し掛かるかもしれない。



「そうだね、長いね。忙しい人だから……、え?」



ようやく彼から離れたはずの視界に、再び彼の顔が映り込んだ。正面から迫ってくるというだけなのに、昨日の会議室の彼の姿と重なってフラッシュバック。



思わず目を閉じて、後退りしそうになる足をうんと踏ん張った。



「可愛い」



息が漏れるような小さな声で呟いて、くすっと彼が笑う。いかにも面白がっている風な顔が、離れていくにつれて涼しい顔へと戻ってく。



だけど、私はすぐには戻れない。
一度加速し始めた胸のざわめきは、簡単に収まりそうにない。



いったい、どうしてくれるのよ。



この気持ちは、何と呼ぶべきなのか。
悔しさに似た気持ちに、胸が締め付けられる。