いっそ自分の意識を、どこか遠くへ飛ばしてしまいたいと切に願っていた。
それぐらい、外国語は苦手。
せめて未来から来た国民的ロボットが、言葉が通じるようになる魔法の道具を出してくれないかしら。
などと考えていたら、耳に飛び込んできた新たな声。
私を凝視していた外国人たちの視線が、あっという間に逸れる。私の斜め後ろから聴こえてきた声へと、吸い寄せられるように。
一瞬、私の心の声かと思った。
心の声なら、何でもありなのかもしれないと。理想が現実に、ついに妄想が具現化したのではないかと。
それにしては流暢な英語、柔らかなのに張りのある声。
もちろん、私の声のはずがない。
ゆっくりと、声のする方へと振り向いた。
そこには、深い灰色の制帽を被った橘さんの笑顔。
外国人たちの視線を一身に浴びながらも、少しも物怖じすることなく受け答えしている。
橘さんが、落ち着き払った様子で手振りを加える。パリッとした白い半袖シャツから、程よく引き締まった腕が見え隠れする。
制帽と同じ深い灰色のパンツも、ぴんと張ってシワがなく清潔感ある印象。

