「ごめん、ちょっと待ってて」
言い残して、姫野さんは駅員室を離れてコンコースの隅へと向かってく。
ちらりと聴こえてきたのは、社内の他部署にいる人の名前。急に舞い込んだ会議の関係者のひとりだ。
姫野さんの慌ただしい背中を見ていたら、外出は今日じゃなくてもよかったのに……と思えてしまう。
まあ、忙しいのは今日に限ったことじゃないけれど。
置いてけぼりの私は駅員室を出たドアの真ん前で、お客さんの流れを眺めていた。改札口を出たお客さんが流れていく先は、北か南の二手に分かれる。
茜口駅の改札口は、ホームと同じ高架のフロア上にある。改札口を出たら、だだっ広いコンコース。出入口は北と南の二箇所で、いずれも地上階へは階段とエスカレーターを使わなければならない。
一応エレベーターもあるけれど、出入口と離れているから少し遠回りになってしまうようだ。しかもエレベーターへと案内する表示が小さくてわかりにくいから、あまり利用されていないらしい。
現にスーツケースを持ち上げてエスカレーターを乗り降りする人、階段を上がってきた人の姿もちらほら見られる。さすがに車椅子やベビーカーの人は、エレベーターを使わなければならないだろうけど。

